「もし生理用品が手に入らなかったら?」
この問いは、多くの若者が英国で実際に直面していた課題でした。
“Period poverty(生理の貧困)” と呼ばれる状態は、財政的な理由や用意を忘れたことがきっかけで、学校やカレッジへの出席に影響を与えると指摘されてきました。

こうした現実の前に、英国政府は制度としての対応を始めました。
それが 「Period Product Scheme(生理用品支援制度)」です。これは、教育現場に通うすべての人が、必要なときに生理用品を無償で受け取れるようにする仕組みです。


いつから始まったのか?

このスキームは、2020年1月20日に英国政府(イングランド教育省)の公式方針として発表・運用が開始されました。以後、学校やカレッジは登録することで、政府契約の供給業者から無料の生理用品を注文できるようになっています。

その目的は明確です。

“生理によって教育の機会が奪われるべきではない”

という理念のもと、学校に通う生徒・学生が日常的にアクセスできるようにすることが狙いです。

年齢や背景、人種、性別(二次性徴に伴う生理がある人)を問わず、必要な人が利用できる仕組みとして設計されています。


 

どんな仕組み?

このスキームは、次のような特徴があります。

🎓 対象

  • イングランドの州立学校・中等教育機関(Year 5以上)

  • 特別支援学校

  • 16〜19歳向けカレッジ(仕事準備・進学準備教育)

に通う、生理のある人すべてが対象です。

 📦提供されるもの

  • 生理用ナプキン(羽付き・羽なし、環境配慮型)

  • タンポン(アプリケーター付/無)

  • 月経カップ

  • 生理用ショーツ

  • ライナー、場合によってはタイツなども注文可能です。

 🛒注文方法

学校・カレッジはオンラインや電話で注文し、無料で配送されます。注文量に上限(支出キャップ)があり、年間の予算に応じて配分されています。

また政府のガイドラインには、配布方法(例えばトイレ近くの常設、トークン方式、スタッフを通すなど)や啓発・周知方法も詳しく記載されています。これにより単なる供給ではなく、利用しやすさとスティグマ(偏見)解消への配慮が行われています。

Period Product Schemeでは、各教育機関に対して
「生理が始まっている可能性のある女子学習者数の35%」
を想定した取得率をもとに、年間の予算上限(キャップ)が設定されました。


背景──市民運動が政府制度化を後押し

英国でこの制度が生まれた背景には、政府の政策発案だけでなく、市民や地域の運動の影響が大きくあります。

The Red Box Project の役割

The Red Box Project」は、2017年3月に立ち上がった草の根の社会運動です。創設者たちは、地域の学校で生理用品ボックス(赤い箱)を設置し、寄付された生理用品を提供する活動を始めました。(レッドボックスジャパンはこの日本支部として2019年に設立されました。)

この活動は瞬く間に全国へ広がり、数百以上のボランティアが参加。学校現場のニーズの高さと欠席問題への深刻さを社会に可視化しました。

Free Periods との連携と法的キャンペーン

さらに Red Box Project は、Free Periods と呼ばれる非営利団体との協力関係を築き、政府に対して法的なキャンペーン(法的義務の遵守を求める法的アクション)を展開しました。
Free Periods のミッションは「生理によって教育の機会が阻まれない社会をつくること」。彼らはこの政策が教育の平等と法的義務に関わると訴え、2019年に政府がスキーム導入を公表する一助となったとされています。

Red Box Project はその後公式スキームが発足するタイミングで自ら一部プロジェクトを縮小しましたが、その運動は制度化への重要なドライブとなりました。


制度の影響といま

政府発表では、スキーム開始後、多くの学校やカレッジが参加し、利用が進んでいるという報告があります。2025年から2026学年度も制度が継続され、イングランドの公立学校や教育省が資金提供する16歳から19歳の教育機関が対象です。
Personnel Hygiene Services Limited(phs)との契約により、各学校は幅広い生理用品を選択・発注し、必要時に配送を受けられる仕組みが確立されています。ある年次データでは、94%の中等教育機関が生理用品を注文し、教育現場での供給が進んでいるとされています。

一方で、地域によっては未参加の学校もあり、制度への登録・利用促進が引き続き課題になっています。こうした現場からの声を受け、運動団体や教育関係者は引き続き制度の普及と周知活動を続けています。



なぜこの仕組みが重要なのか?

Period Product Scheme は、単なる「物資の提供」にとどまりません。それは次のような点で、教育と社会のあり方に一石を投じています。

  • 教育機会の均等化
    生理用品不足による欠席の不利益を解消する仕組みとして機能しています。

  • 社会的な理解・偏見解消への一歩
    単なる配布ではなく、啓発と組み合わせることで「生理は隠すべきものではない」という文化変革につながる試みです。

  • 運動と政策の協調
    市民運動が制度化の土台を築いた例として、他国の政策形成にも示唆を与えるモデルとなっています。

英国の Period Product Scheme は、政府の施策として 教育現場における生理用品のアクセスを無償で保証する制度 です。
その背景には、地域レベルの草の根運動や法的キャンペーンがあり、社会的な気運の高まりによって生まれた政策でもあります。

生理のある人すべてが、安心して学ぶことができるように——。この理念は、制度化の形を通じて実際に教育現場で具現化されつつあります。


出典・引用
Guidance ”Period product scheme for schools and colleges”
News story"Free period products for all schools and colleges"
How the Period Products Scheme is removing barriers in education
The Red Box Project
Free Periods