「生理用品が買えない」「手元にない」。
それだけの理由で、学校を休まざるを得ない女子学生が日本にもいます。
「たかが数日の欠席」と思われるかもしれません。
しかし、英国教育省(Department for Education:DfE)が2025年3月に公表した調査では、10代の学校生活における欠席日数と、将来の所得との間に、無視できない関係があることが明らかになりました。
では、学校を1日休むことは、将来の年収にどのくらい影響するのでしょうか。
本記事では、英国の大規模な調査結果と、日本国内の「生理の貧困」に関する調査を重ね合わせながら、生理用品へのアクセスを確保することが、なぜ「教育への投資」「将来への投資」とも言えるのかを考えます。
英国の調査――15〜16歳の「欠席」と28歳時点の所得を追跡
今回参照するのは、英国教育省が2025年3月に公表した「The Impact of School Absence on Lifetime Earnings」という調査です。
この研究では、英国の Key Stage 4(日本の中学3年〜高校1年に相当)、15〜16歳の2年間の学校の欠席記録と、その後、対象者が28歳になった時点の実際の税務データを結びつけて分析しています。
教育・税務・給付などの行政記録を紐づけた「LEO(Longitudinal Education Outcomes)」というデータセットが利用され、約51万人分という非常に大規模なデータが分析されました。
この調査から、大きく2つのことが分かりました。
① 欠席が多いほど、28歳時点の平均年収は低い

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常習的欠席者(欠席率10%超)は28歳時点で福祉給付を6か月以上受給する確率が2.7倍、重度欠席者(50%超)は4.2倍に上昇
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常習的欠席者は12か月間の継続就業の可能性が約58%低下、重度欠席者は約74%低下
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欠席率0~1%の生徒の平均年収は約£32,200(約630万円)だったのに対し、常習的欠席者(10%超)は約£19,500(約380万円)、重度欠席者(50%超)は約£10,100(約200万円)と大きな差が見られた

※この関係は相関であり因果関係を確定するものではない点に注意が必要です。
②欠席日数と年収の関係を、統計モデルで検証すると、欠席1日ごとの「限界的な影響」も確認
研究チームは、欠席日数と年収(対数変換値)の関係を、以下のような二次関数の回帰式でモデル化しました。
ln(28歳時点の年収) = α + β1×(欠席日数) + β2×(欠席日数)² + 個人属性の統制変数 + 学校固定効果 + 誤差項
推定された係数は次の通りです。
β1 = -0.00871 β2 = 0.000026
欠席と年収の関係は直線ではなく曲線(非線形)であるため、「ある欠席日数の生徒が、そこからさらに1日休んだ場合の影響」を知るには、この式をxで微分した以下の式を使います。
限界効果 = β1 + 2×β2×x
この調査対象者の平均欠席日数(x=22日)を代入すると、
限界効果 = -0.00871 + 2×0.000026×22 = -0.008(=0.8%)
つまり、「平均的な欠席日数(22日)の生徒が、そこからさらに1日欠席すると、28歳時点の年収は約0.8%減少する」という結果です。これは統計的に有意な関係です。
※上の式が示す通り、0.8%はあくまで「22日という欠席日数を起点にした場合」の限界的な影響であり、欠席日数が変わればこの数値自体も変わります。
※二次関数の性質上、欠席日数が極端に多くなると計算上「もう1日休むとむしろ収入が増える」という非直感的な結果になってしまうため、研究チーム自身も、この式を欠席日数が極端に多いケースにそのまま当てはめることには使わないよう注意を促しています。そのため本記事でも、①の表にある実測の年収比較を中心に議論を進めます。
日本でも「生理」が学校を休む理由になっている
この調査は英国の一般的な欠席を対象にしたものであり、生理による欠席を直接分析したものではありません。しかし日本国内に目を向けると、「生理」を理由にした欠席が一定数存在することが、複数の調査で明らかになっています。
プラン・インターナショナル・ジャパンの調査では、10人に3人の若年女性が、生理を理由に学校・部活動・職場を遅刻、欠席、早退した経験があると回答しました。
そのうち、
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3.7%が「頻繁に」
-
2.7%が「生理のたびに毎回」
欠席・遅刻・早退していると回答しています。

また、厚生労働省が2022年に実施した「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」でも、生理用品を購入・入手できなかったことを理由として、
「学校や職場を遅刻、早退、欠席する」
という影響が生じた人が確認されています。

「生理のたびに毎回」欠席・遅刻・早退している生徒がいるとすれば、学齢期を通じて積み重なる欠席日数は、英国調査でいう「常習的欠席(欠席率10%超)」の水準に近づく可能性があります。
では、日本で「学校を1日休む」といくらになるのか?
ここからは、日本の状況を考えるための参考試算を行います。
日本と英国では、平均給与の水準や労働市場、教育制度などが異なるため、英国の調査で示された「欠席1日あたり約0.8%」という数字を、そのまま日本に当てはめることはできません。
そこで、日本と英国の平均給与の差を使って、0.8%という数字を日本の水準に調整してみます。
国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の女性の平均給与は333万円です。
一方、2025年の英国の女性の平均給与は£35,670(約738万円)です。
333万円[日本]÷ 738万円[英国]
= 0.4512…
≒ 0.45 →平均給与は英国の約45%の水準
0.8% × 0.45
= 0.36% →学校を1日欠席した場合の将来年収への影響を、日本の給与水準に合わせると約0.36%
333万円 × 0.36%
= 333万円 × 0.0036
= 11,988円 →約1万2,000円です。
英国の「0.8%」という研究結果を、日本の給与水準に合わせて換算すると、1日あたり約1万2,000円という数字になります。
「学校を1日休む」ことは、将来の年収約1万2,000円分に相当する?
もちろん、「生理で学校を1日休むと、将来の年収が1万2,000円減る」と断定することはできません。
英国の研究が示しているのは、学校の欠席日数と将来の所得との間に統計的な関係があるということです。
欠席が多い生徒には、家庭の経済状況・健康状態・家庭環境・学習環境など、欠席と将来所得の両方に影響する別の要因が存在する可能性があります。
したがって、本記事の「約1万2,000円」という数字は、
「英国の研究結果を日本の給与水準に合わせて換算した参考値」
として捉える必要があります。
しかし、ここで考えたいのは、「1日」という教育機会の損失が積み重なる可能性です。
生理用品へのアクセスは「未来への投資」

生理用品が手元にないという、本来であれば比較的シンプルに解決できる問題によって、学校へ行けない生徒がいる。
その1日を、
「仕方のない欠席」
として見過ごすのか。
それとも、
「防ぐことができる教育機会の損失」
として捉えるのか。
ここには大きな違いがあります。
私たちが注目しているのは、
本来であれば、環境を整えることで防ぐことができたかもしれない欠席
です。
生理用品がない。
誰かに言わなければもらえない。
購入する余裕がない。
突然の生理に対応できない。
こうした理由で、授業を受ける機会を失うことがない環境をつくる。
学校のトイレに生理用品を常設することは、そのためのシンプルで具体的な方法の一つです。
すべての生理関連の欠席を解決することはできなくても、その中にある「防ぐことのできる欠席」を一つでも減らすことはできるかもしれない。
そして、その1日を積み重ねないことが、生徒一人ひとりの教育機会や、将来の選択肢を守ることにつながっていきます。
学校に行く。授業を受ける。学び続ける。進学や就職の選択肢を持つ。
そして、将来自分が望む仕事やキャリアを選ぶ。
そのための環境を整えることにもつながります。
だからこそ、生理用品へのアクセスは、単なる「衛生用品の提供」ではありません。
一人ひとりの健康と教育の機会を守るための社会インフラとして考える必要があります。
生理用品へのアクセスを「教育機会」の問題として考える

レッドボックスジャパンが生理用品へのアクセス整備に取り組んでいるのも、こうした背景があります。
私たちが目指しているのは、単に生理用品を配ることではありません。
必要なときに、必要な人が、周囲の目を気にすることなく生理用品を利用できる環境を、学校や地域の中に当たり前のものとして整えていくことです。
だからこそ、まずは目の前にある「生理用品がなくて学校に行けない」という障壁を取り除くことが重要です。
生理で学校を休まなくていい。
その当たり前をつくることは、目の前の健康を守るだけでなく、将来の教育、キャリア、そして経済的な選択肢を守ることにもつながるのではないでしょうか。
レッドボックスジャパンは、これからも企業や自治体、学校と連携しながら、生理用品へのアクセスを当たり前のものにしていきます。
出典
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Department for Education (UK), The Impact of School Absence on Lifetime Earnings, March 2025
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Median annual earnings for full-time employees in the United Kingdom from 1999 to 2025, by gender (in nominal GBP)
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国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
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プラン・インターナショナル・ジャパン「日本のユース女性の生理をめぐる意識調査」(2021年)
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厚生労働省「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」(2022年)









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